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【スラムダンク】『SLAM DUNK』を安西先生を主人公として読み解いたとき、また違った物語が見えてくる

スラムダンク

 

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安西先生

 

スラムダンクといえばこの台詞!というほどに有名な、

 

「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」

 

の名言を生み出した、湘北高校の監督教諭。

 

「漫画作品の理想の指導者と言えば?」みたいなランキングでも上位に入ることが多い。

 

スラムダンク世代の僕らにとっては、まさに、神格化された理想の監督である。

 

 

安西先生は実は名監督ではない?

でも、しばしば理想の指導者みたいに語られる安西先生だけど、

冷静に考えると、作中でやっていることは結構酷い。

 

安西先生の酷い所業 その1

まず、スランプに陥って部活に来なくなった三井に、特に何もフォローをした形跡がないというのが一つ。

自分を慕って弱小公立高校に入学してきてくれた中学MVP選手が、怪我でスランプになってそのまま部活に来なくなってしまったのに、何のフォローもしなかったっていうのは、監督としては相当酷いのではないか。

 

安西先生の酷い所業 その2

続いて、安西先生初登場回の彩子の台詞から。

「安西先生っていってね、たまにしかこないけど

そう、彩子はハッキリと、安西先生はたまにしか来ないと言っている。

 

ところが、作中のその後の練習の様子を見ていると、どう見ても 毎回欠かさず来ている。

湘北が弱小だった頃は全然来なかったくせに、桜木・流川といった金の卵が入部した途端、毎回来るようになる安西先生。これも、監督としては結構酷い。

 

 

このように、理想の指導者のように語られることの多い安西先生だが、冷静に考えると、高校の部活動指導者としては結構酷いことをしているのである。

 

でも、安西先生がどうしてこのような行動を取ったのか。

安西先生を神格化された年長の指導者ではなく、僕たちと変わらない一人の人間としてその心の動きを追ってみたとき、この『SLAM DUNK』という物語は、全く別の顔を見せてくる。

今日は、スラムダンクを「安西先生の物語」として読み解いたとき、どのようなストーリーが浮かび上がってくるのか、それを見ていこうと思う。

 

 

第一章 谷沢事件

そもそも安西先生は、白髪鬼(ホワイトへアードデビル)と呼ばれるほどの、厳しい指導と、ヤクザみたいな威圧感と、軍隊式のスパルタ練習が特徴だった、めちゃくちゃ恐い監督だった。

それがなぜ、湘北高校在籍時には180°人が変わった『白髪仏(ホワイトへアードブッダ)』になってしまったのか。

 

全巻読破済みの方はご存知の通り、そのきっかけとなったのが、「谷沢事件」である。

将来を期待していた愛弟子、谷沢が、自分のスパルタ指導が原因で渡米し、最終的に事故死してしまった事件。

 

安西先生は随分悩んだに違いない。自分があんなスパルタ指導をしていないければ、谷沢はアメリカに渡ることも、そして命を落とすこともなかったのではないか。自分の今までの指導方法は間違っていたのではないか。

実際には作中では、安西先生が「谷沢は自分のスパルタ指導が原因で渡米した」と捉えているという直接的は描写はない。谷沢は安西先生にも黙ってアメリカに飛んだようなので、彼が渡米した原因をどう捉えていたかはわからない。

だが、そもそも作中であのタイミングで谷沢のエピソードが描かれていること、そしてその後読者がご存知の通り180°指導方法を変えていることから、安西先生が谷沢の死に対して責任を感じていて、自分の今までのスパルタの指導方法にその原因があったのではないかと少なからず思っていることは明白だ。

 

あの年齢で、自分が自信を持っていた方法論が土台から崩れ去るというのは、どれ程の衝撃なのだろうか。

もっと若かったらやり直しも効く。だけど、もうそろそろ自分の集大成を作り上げて引退しようと考えているタイミングで、自分の今までのやり方を全て否定されるような事件が起こるって、めちゃくちゃキツいんじゃないだろうか。

 

 

第二章 失意の中での湘北高校の日々

もう今までのような指導はできない。でも、バスケ一筋で生きてきた自分にとって、今更ほかの仕事もできない。

半ば ぬけがら状態の安西先生の元に、地元の高校から、ウチの高校のバスケ部の顧問をやってくれないかという依頼が舞い込む。

もう大学で本格的な指導はできないが、まだ働き口は探さなきゃいけない。そして自分はバスケしか能がない。地元の公立高校の弱小バスケ部を見るだけなら、まぁいいか……。そう思って、安西先生はその依頼を引き受けることにした。

 

ところが、彼にとって計算外なことが起こる。元全日本選手で、指導者としても数々の功績を残してきた安西先生の名前を聞きつけて、この弱小高校に次々と優秀な人材が集まってきてしまったのである。

凄まじいポテンシャルを秘めた赤木、宮城、そして中学MVPの三井寿!

 

これには安西先生は内心「やめてくれー!」と思っていたんじゃないだろうか。

今の自分に何かを期待して来られても、何もしてあげられることはない。

なんてったってこの歳で、道に迷っている最中なのだから…。

 

三井が怪我で入院し、その後部活に来なくなったときも、安西先生は何もしなかったんじゃない、何も「できなかった」んだ。

才能溢れる選手が部活に顔を出さなくなってしまった。安西先生は当然、気にしていただろう。でも、教え子を死なせてしまった自分に何ができるというのか。むしろ、その状況がそのまま谷沢事件をフラッシュバックさせてしまい、余計に何もできなかったのかもしれない。

 

安西先生は三井に何もしなかったのではなく、失意と迷いの中にいたため、「何もできなかった」。

 

部活にあまり顔を出さなかったのもそう。

何も弱小高校の彼らに興味がなかったのではない。「自分が彼らにしてあげられることなど何もない」 そんな思いが胸の中にあったから、最低限しか関わりを持とうとしなかったのではないだろうか。

 

 

第三章 桜木との出会い 

そんな安西先生を変えたのが、桜木との出会いである。

 

真っ赤な髪のヤンキーで、自分のことを「オヤジ」と呼び、敬語を使わない。どころか、腹を引っ張ったり、アゴをたぷたぷしてくる という、とんでもない男。

バスケ初心者の高校生のくせに、元全日本選手で超有名監督だった自分と、対等に接してくる。

 

どこへ行っても、誰もが、自分を、元全日本選手で、強豪大学チームの名監督だった「安西先生」として扱ってくる。過去を捨て去りたくても、それすら許されなかった安西先生にとって、桜木との日々はめちゃくちゃ新鮮だったに違いない。

才能溢れる初心者の高校生が、スポンジのように何でも吸収して成長していき、バスケにのめり込んでいく。安西先生にとって桜木との時間は、過去のしがらみを忘れ去って、自分にとって本当に大切だった「バスケの楽しさとは何か」「教えることの楽しさとは何か」を、思い出せる時間だったに違いない。

 

安西先生が急に毎日のように練習に来るようになったのは、湘北が急に強くなったっていうのもあるけど、一番は桜木と接する時間が単純に楽しかったからなんじゃないだろうか。

実際、作中でも、安西先生自身が、

「道楽か…そーかもしれんね。日一日と…成長がはっきり見てとれる。この上もない楽しみだ」

「どんどんよくなる君のプレイを見ていたかったからだ……」

と、桜木を見ている時間を "楽しい" とはっきり口に出して言っているシーンもある。

 

そして、安西先生は、桜木と、そして前向きに成長していく湘北メンバーと日々接していくことで、少しずつ、失った自信と、人生に対する前向きさを取り戻していく。

 

 

最終章 そして…

そして、山王戦のあのシーンである。

山王に大差を付けられ、桜木ですら『負け』の二文字に支配されかけ、安西先生の「桜木君、プレイを見るんだ、ここに座りなさい」という言葉に答えようとしない。そんな桜木にかけた、安西先生の衝撃的な一言……。

 

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「聞こえんのか?あ?」

 

この場面は本当に、桜木たち作中の登場人物たちにとっても衝撃的だったし、読んでる僕らにとっても衝撃的な場面だった。

 

だが、ここまで安西先生の心の動きを追ってきて、再度この場面を振り返ったとき、また違った衝撃を感じることができるはずだ。

 

ここまで見てきた通り、安西先生にとって、白髪鬼(ホワイトへアードデビル)時代のスパルタ人格は自分にとって捨て去りたい過去だったはずだ。

あのスパルタ指導が教え子を死なせた……とまでは言わないとしても、責任の一端は確実にあると感じていて、だからこそ白髪仏(ホワイトへアードブッダ)と言われるほどに180°キャラクターも指導方法も変えてしまったのだから。

 

その、封印したはずの自分を、ここで出したのだ。

これは、安西先生が 過去のトラウマを乗り越えた ことの証左に他ならない。

 

失意の中で出会い、自分を取り戻させてくれた青年。その青年を奮い立たせるために、ほんの一瞬であるけれど、封印したはずの過去の自分を解き放つ……!

そういう見方をすると、この場面って、本っ当に名場面なんだなぁと、あらためて思う。

 

そして、彼の指導と、蘇った桜木の活躍により、湘北は徐々に勢いを取り戻しはじめ、ついには、王者山王工業に勝利するのだった———。

 

 

まとめ

かつて名監督だった老人は、引退直前、自分の集大成にしようとしていた愛弟子を、そのスパルタ指導が原因で死なせてしまう。

失意の中、行き場のない彼は公立高校部活動の顧問をしていたが、そこで今まで出会ったことのない青年に出会う。

自分を「オヤジ」と呼び、敬語を使わず、対等に扱ってくる、バスケ初心者の青年。

彼と接しているうちに、老人は次第に自分の大切なものを取り戻していく。

そして、全国大会の大一番、自分に負けそうになっているその青年を奮い立たせるため、老人はついに過去のトラウマを乗り越え、昔の自分をも利用して、教え子たちを勝利に導くのだった!

 

スラムダンクを 安西先生が主人公の物語 として見ると、こういう話になる。

 

安西先生は神格化された理想の指導者なんかじゃない。

むしろ、失意の中、道に迷っていた、一人の弱い人間だったのだ。

だから、三井が部活に来なくなったときも何もできなかったし、赤木や宮城のような才能溢れる選手が入学してきても、なかなか部活に顔を出さなかった。

スラムダンク本編の全31巻は、そんな安西先生が、桜木・流川と出会い、三井と再会し、徐々に自分の人生を取り戻していく物語でもあるのだ。

 

そう思って読み直すと、また違った趣きが見えてくる。

 

貴方も、そんな安西先生に着目して、この名作、スラムダンクを、もう一度読み返してみませんか?

 

 

<おまけ>

スラムダンククイズ

Q: スラムダンクを代表する安西先生の名言

 「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」

 これは誰に向けて言った言葉でしょうか?

A: 桜木 花道。

 三井に言ったのは「あきらめたらそこで試合終了だよ」

 

 

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