3月のライオン
去年発売された『3月のライオン』の第15巻を、
ようやく読むことができたんだけど、
これがもう 過去一番 なんじゃないかと思うぐらい面白かった!
※ 軽度のネタバレがありますので、未読の方は注意
『君に届け』か!?と思うぐらい甘酸っぱい恋物語
まず初っ端の2話が、『君に届け』か!?と錯覚するぐらい、甘酸っぱくて素晴らしい!!
めっちゃモダモダするよ。胸キュンするよ。萌え死ぬよ。
もうね、零君とひなちゃんをここまで見守ってきて本当によかったなぁと心から思える最高の2話。
10巻ラストのプロポーズシーンも最高で、あそこが過去一の名シーンだと思ってたけど、今回はそれを上回ってきましたね。
いやぁ、素晴らしい。
もうこの時点で第15巻は今までで一番好きな巻になりましたよ。
そんな感じで初っ端の2話で過去最高視聴率を叩き出したんで、ここがこの巻のクライマックスだと思ったんですよ。
ところが、
第15巻の本領発揮はここからでした。
新キャラクター『野火止 あづさ』の登場
零君とひなちゃんの甘酸っぱい夢のような一夜の後、
新しいキャラクターが登場し、彼のエピソードが始まります。
彼の名は『野火止(のびどめ) あづさ』。
今回の零君の対戦相手です。
(棋士は)善人ばかりのこの漫画で、珍しく初登場からいけ好かないキャラ。
しかも主人公の敵。
正直、今回のキャラは好きになれねぇなぁ と、思いました。最初は。
ところが…
この 野火止 あづさ が
めちゃくちゃ良かったんですよ!!!
天才じゃなくても、努力が無駄になっても、もがき続ける
あづさは典型的な「自分が天才だと勘違いしていたけど実はただの凡人だということに気付いてしまうという挫折を味わった」タイプの元天才若手棋士。
正確に言うと凡人じゃなくて秀才なんだけど、とにかく天才だと思っていたら天才じゃなかったタイプの人間です。
凡人(秀才)が本物の天才という壁にぶち当たったとき、そこで挫折して終わる人も沢山いるんだけど、彼はプライドが高い以上に 極度の負けず嫌い だったために、食らい付き、かじりついて、道を歩き続けた。
しかも彼は元来努力が嫌いな人間なんだよね。
でも自分は天才じゃないから努力しないと勝てない。
でも、大嫌いな努力を吐くほどしても、その努力自体が無駄になってしまうことも死ぬほど多い。
実際、零君との対戦でも、努力が一瞬で無に帰して、一度自暴自棄になりかけます。
でも、彼はそっからあがくんですよ。
才能がなくても、努力が無駄になっても、意地と執念だけで零君に必死で喰らいついていきます。
息のできない水中で、溺れながらも必死で泳ぎ続けるかのように、一手一手打ち続けるあづさ。
そんな彼の姿に、いつの間にか感情移入してしまっています。
零君にトドメを刺された瞬間の、
ゴボォッ…!
とあづさが溺れる描写は、読んでて息が止まるかと思いました。
敗戦後、悔しさで畳を掻き毟るあづさの姿を見て、
気がついたら泣いていました。
こんなに魅力的な脇役を描ける羽海野先生は、やはりすごい
15巻にもなって登場した新キャラで、
メインでもレギュラーでもない脇役で、
1エピソードのみの単発のキャラで、
これほど色濃く、忘れられないキャラクター を描ける羽海野先生は、
やはり、とんでもなくすごい。
『3月のライオン』は、零君と川本家、あと島田さんや二海堂あたりのキャラクターによるメインストーリーが柱としてあり、その幕間を縫うように様々な棋士たちを描いたサブエピソードが存在する。
どちらもがこの漫画の本編であり、3月のライオンは長編大作と短編集の両方の性質を兼ね備えているような感覚で読める。
そして、そのどちらもが甲乙付け難いぐらい面白い。
そんな棋士たちを描いた短編集的性質のエピソード群の中でも、今回の話は今まででも一番好きかも。
今回の話といい、8巻の『焼け野が原』のエピソードといい、
羽海野先生はどうしてこうも、「え?このキャラ主人公じゃないの!?メインキャラじゃ、レギュラーじゃないの!?」という素晴らしいキャラクターを、新キャラに、脇役に、単発エピソードに、据えてくるのだろうか。
しかも、中学生から還暦のおじいちゃんまで、天才から凡人まで、凡人から変人まで、ありとあらゆる、全く異なる人種を、まるでその人の人生を丸々生きてきたかのようにリアルに描く。
羽海野先生と田村先生*1は、一体何回人間やってるんですかね!?
おわりに
零君とひなちゃんの甘酸っぱい夢のような時間。
そして、過去一番ぐらいに強烈に心に爪痕を残す『野火止 あづさ』のエピソード。
『3月のライオン』第15巻は、今までで最高の一冊でした。
今年もどこかで最新刊 第16巻が発売されるのかな?
その日が今から楽しみだ!
*1:『7seeds』の作者