この音とまれ!
巻数が進むほどにどんどん良くなっていく漫画
この企画で、常に当落線上ギリギリにいながら、気付いたら20作品中2位になっていた漫画。
毎回、「う〜ん、この漫画は、ここまででいいかな…」と思いながら、最後の1巻で、「あれ?ちょっと面白いぞ?」と感じさせ、「とりあえず、次の巻に進むか」と思わせ、気付いたら大好きになっていた漫画。
まず1巻読んだ時の印象はかなり悪かった。
『あひるの空』を読んだときも思ったけど、自分は第1話で不良が部室を荒らしている系の漫画がまずダメで、この漫画も始まりはそこからなので、その時点でちょっと読むのがキツかった。
キャラクターも、暴力系ヤンキーの久遠はもちろん、メガネ部長の倉田も、経験者ヒロインの鳳月も、メインキャラクター3人が全員いけ好かない。
メインキャラクター以外のモブも嫌な奴ばかり。嫌がらせをする系のキャラが本当に心底嫌すぎる。
正直、お世辞にも好きな漫画とは言えなかった。
それでも、部活モノの漫画は好きだし、それも「箏(こと)」の漫画なんて読んだことないから、もう少し読み進めてみるかと思い、続きを読んでいた。
変わったのは3巻。
3巻での全校生徒の前での演奏のシーンが良くて、そこで印象がガラリと変わった。
不覚にもちょっと泣いた。
その後も、たびたび嫌な奴が出てきて、その度に「ウッ」ってなりながらも、深まる箏曲部の絆と演奏シーンの描写が良くて、やっぱり次の巻が読みたくなっていった。
そして13,14巻。
もうね…この2巻が素晴らしすぎて…!
号泣しましたよ。
「天泣」の演奏シーンがとにかく素晴らしいし、演奏後の展開も感動の連続。
完全に化けましたわ、この漫画。えぇ、もう、読みますよ。読みますとも。今出ている29巻全部読んでやらぁ!となりましたね。
本当に、読み進めるごとに、巻数が大きくなるごとに、どんどん好きになる漫画です。
1巻や2巻で挫折せず、ぜひ読み続けて見てください。
最悪の第一印象から大好きになるキャラクターたち
この漫画で、第一印象が良かったキャラクターって、まー出てこない。
第一印象から良かったキャラってほとんどいない。哲生と校長と衣咲ぐらいか?
まずメインキャラクターである箏曲部は後から入ってくる1年生含めて全員もれなく第一印象最悪だし、顧問の滝浪先生やコーチの堂島晶も第一印象悪い。
メインキャラクターでさえそれなのに、更に主人公たちに嫌がらせをする悪役がバンバン出てくる。
正直、新キャラクターが出るたびに「ウッ」ってなるレベル。「読むのがしんどっ」ってなる。
でもその第一印象が悪かったキャラクターたちが、どんどん良くなる。
どんどん好きになっていく。
メインキャラクターの箏曲部のメンバーなんて、全員漏れなく愛おしくてたまらなくなるからね。
「え?俺、こいつらを嫌いな時代なんてあった?」ってなる。もうその頃を思い出せない。
こんな良い奴らが最初嫌な奴だったの?マジで?信じられないんだけど?
嫌がらせしてくるモブキャラも大体良いやつになる。
1巻読んでる人は信じられないかもしれないけど、あの教頭がめっちゃいい奴になるからね。29巻まで読んでる人はわかるけど、教頭大好きになるからね。
10巻ぐらいの人は信じられないかもしれないけど、堂島のばあちゃんも好きになるからね。流石にこいつだけはないと思うでしょ?でも好きになってるから、今。
お互いに響き合い、変わっていくキャラクターたち
まぁでも、嫌な奴が次々と改心していくタイプの漫画自体は、他にもあると思う。
ただ、そういう漫画って大抵、カリスマ的に性格の良い主人公格のキャラクターが一人いて、そいつの情熱に当てられて周りのキャラが次々心を入れ替えていく、という仕組みだと思う。
この漫画の凄いのは、そういうカリスマ的な存在が一人もいないこと。
主人公であるメインの3人、久遠も、倉田も、鳳月も、最初は確かに3人とも嫌な奴だしいけ好かない奴なんだよ。
久遠はある程度純粋だけど、それでも人を変えられるほどの力はない普通の人間の範囲内。
その3人が、誰か一人の影響じゃなく、お互いがお互いに影響し合って、少しずつ変わっていく。
3人だけじゃなく、箏曲部のメンバー全員、さらにはそれを取り巻く周りの人間も、お互いに影響し合って、成長したり、純粋さを取り戻したり、夢や情熱を持ったり、絆や愛情に目覚めていく。
1人のカリスマがみんなを変えていく話じゃなくて、普通の、欠点のある凡人たちが、お互いの良いところに感化され合って、悪いところを補い合って成長していく話というのが、この漫画にしかない良さなんだと思う。
後半は、時瀬高校箏曲部自体が一つのカリスマ的存在になっていくけど、その中にいる9人の人間たちは、ダメなところや嫌なところもあるし、お互いがお互いを補い合って成長していくから、変わらず感動していくことができる。
音楽が聞こえてくるような演奏シーン
そしてこの漫画の良さといったら、何と言っても演奏シーンの素晴らしさ。
特に「龍星群」「久遠」「天泣」の演奏シーンは、もうね、イイ!
語彙力ないのが悔しくてしょうがないけど、素晴らしい、ホント、凄くいい!
重要な大会とかでは、1話以上かけてしっかりと曲の最初から最後まで弾いているシーンが描かれていくんだけど、これが本当に、無音のはずなのに読んでて曲が、音楽が、箏の音色が聴こえてくるんだよね。
主人公たちは半端なく努力しているんだけど、その努力が花開く瞬間が伝わってくるし、今、これまで練習した中で最高の音を出せている、心を一つにできている、というのが、箏を弾いている絵だけで伝わってくる。
重要な大会のシーンだけじゃなく、練習や他校の演奏シーンも良い。
百谷が爪を変えて初めて合わせたシーンは泣いた。
今までの演奏シーンですらこんなに良かったんだから、
この後の「和」の演奏はいったいどうなっちゃうんだろう…。
今から楽しみでしょうがない…!!
無音のまま、紙面から聴こえないはずの音楽が聴こえてくるのを楽しむのもいいけど、実際の箏の音色を聴きながら読むのもまたいいよ。
Apple Musicで『この音とまれ!』のアルバムが出ていて、「龍星群」「久遠」「天泣」も実際に聴けるので。
どれも原作のイメージ通りの、いやイメージ以上の、めっちゃいい曲です。
「龍星群」の後半とか聴くだけで泣ける。
時瀬高校箏曲部が大好きです
読んでたら、作中の登場人物と同じように、時瀬高校の箏曲部が大好きになるよね。
ストーリー的には3巻の全校集会演奏が分岐点だったけど、キャラクター的には倉田がウジウジメガネから毒吐きキャラに変化したところから良くなっていった気がする。
恋する鳳月や来栖が可愛くてしょうがないよね。来栖が「武蔵可愛い」って言う度に、「いや可愛いのはお前だよ」って言いたくなる。
箏未経験の素人たちが全国大会を目指す展開はご都合主義と言えなくもないけど、それを言わさないだけの練習量の描写と、箏に真剣に向き合うキャラクターたちの描写があるから、出来過ぎだとは思いつつも、やっぱりこいつら愛しいなぁと思わずにはいられない。良い漫画ですよ、ホントに。
強い絆と箏への愛情で結ばれた時瀬高校箏曲部に出会いたい方は、
ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。