天使なんかじゃない
作品解説
作者:矢沢 あい
ジャンル:少女漫画
連載開始:1991年
掲載誌:りぼん(集英社)
あらすじ
設立されたばかりの新設高校「私立聖学園」。その一期生である明るく元気なクラスの人気者の女子 冴島 翠 は、クラスのみんなに担ぎ上げられて、この高校初の生徒会役員に立候補する。見事当選した翠だったが、同じ生徒会には以前から気になっていたリーゼントのチョイ悪男子 須藤 晃 の姿が!
翠と晃、そして同じく生徒会メンバーとなった 麻宮 裕子、瀧川 秀一、河野 文太 の5人を中心に、聖学園一期生のキラキラ輝く青春の3年間がはじまる…!
① 絵に描いたような理想的な青春時代!
『天使なんかじゃない』の1番の特徴といったら何と言ってもこれである。
ザ☆青春
恋愛、友情、仲間、課外活動、文化祭、悩みや苦しみ、この漫画のどの瞬間を切り取っても、全てが絵に描いたような典型的な理想的な "青春" そのもの!
なんせ1年生しかいない創立1年目の新設高校の話で、主人公は明るく元気なクラスの人気者の女子、相手役はリーゼントで見た目ワルだけど人の見てないところでは雨の中子猫とか拾っちゃうような典型的な少女漫画イケメンだからね。
準主役の生徒会メンバーも、美人で真面目な才女の親友キャラ、王子様系イケメン、ムードメーカーのラガーマンと、今日び漫画の中だってこんなテンプレートな組み合わせいねぇぞ!?ってぐらいに王道中の王道のキャラクターたちだからね。
これで青春旋風が巻き起こらないわけがない。
ネットで リア充 という言葉ができたばかりの頃、鬱屈したネット民が侮蔑の言葉として生み出した本来の意味でのリア充*1とは、まさにこいつらのことだったんじゃないか。彼らがリア充という言葉を作ったときに想定していた人物とは『天使なんかじゃない』の登場キャラクターたちなんじゃないかと思うほどに、典型的なリア充である。リア充という人種を疎ましく思っている陰キャたちが読んだらその日の夜中にソッコー神社に駆け込んでこの漫画を五寸釘で打ちそう。
だから、自分がこの『天使なんかじゃない』をどんな漫画かを5文字で表現すると、こう。
リア充漫画
この漫画を表現するのにこれ以上に適切な言葉はないし、
逆にこの漫画以上にこの言葉がしっくりくる漫画もない!
とにかくもう、今の令和の時代には漫画の中ですら見なくなった、平成初期ならでは、漫画ならではの、典型的すぎる青春の物語は必見!
第1話から最終回の最後のページまで、全てが青春です。キラキラ輝いていて、楽しそうで、でも本人たちにとってはきっと波乱万丈で、あっという間で、そして、儚い。
そんな青春を味わってみたかったら、ぜひ読むべき漫画!
② 魅力的なサブキャラクター「マミリン」
個人的にはこの『天使なんかじゃない』という漫画の魅力の60%はこのキャラクターが占めているんじゃないかと思っている。
それが、主人公の親友にしてこの漫画の準主人公、麻宮 裕子 こと 「マミリン」。
マミリンは同じ生徒会メンバーの王子様系イケメン 瀧川 秀一 に中学時代から片想いしてるんだけど、彼女が中高合わせて5年間の片想いを成就させていく過程は必見!
ただの5年じゃないからね。10代の5年だからね。長いよー。その途方もない時間、ずっと片想いし続けたマミリンの 一途さ はすごいよ!
片想いが判明して、苦悩し続けて、成就させて、最後その彼氏を置いて留学に旅立つところまで、最初っから最後までマミリンの恋は全てが魅力的だ。見所しかない。
「耐えなさいよ4年くらい!私なんて5年も片想いしてたのよ!」はマジ名言。*2
一途な恋物語が好きな人は、読んどいて損はない!
この恋の一途さも素敵なんだけど、マミリンのキャラクター自体もめちゃくちゃ素敵なんだよね。
最初は美人だけど真面目すぎて冷たくてイケ好かない感じのキャラとして登場するんだけど、徐々にその中身の人間らしさと面白さと強さと可愛らしさが出てくるところが最高すぎるんだよね。
最初にガラッと印象が変わるのでも、最後に印象が変わるのでもなく、漫画の最初から終わりまでかけて印象が変わり続けて、ずっと正比例のグラフのように好感度が上がり続けていく。こんなキャラクターはなかなかいないよ。
マミリンの恋の物語を読むためだけでも、この漫画を読む価値はある。
③ 妙にリアリティのあるキャラクターたち
ストーリーや設定は今日び漫画の中ですら見ないぐらいに漫画の中の世界なんだけど、出てくるキャラクターはみんな妙にリアリティがあるんだよね。
それも、登場したときは皆テンプレートな漫画のキャラクターって感じなんだけど、時間が経つにつれ徐々に人間らしさというかリアリティが顔を出していく。
特にそれが一番顕著なのが、メインキャラクターの一人である王子様系イケメンの 瀧川 秀一。
この瀧川が、序盤はまさに漫画のキャラクターって感じの爽やかイケメンなんだけど、後半になるにつれてどんどん割としょーもないダメな人間であるってことが明らかになっていく。
瀧川の登場シーンの中で、個人的に印象に残っているシーンがある。
物語終盤、晃が瀧川の家に泊まりに行き、夜中に男2人でマリオカートをしているときの会話。
晃「おい、てめ、なにすんだ、性格わりーぞ。」
瀧川「いまさら気づいたかバカめ。」
何気ないシーンなんだけど、なぜか未だに脳裏に焼き付いて離れない。
一つはそれまでの瀧川の性格からしたら考えられない台詞であること。
そしてもう一つは、男同士の会話として「めっちゃありそう」なやりとりなこと。
マジで男2人が夜中にマリオカートしててこんな会話してそうだもん。
お互いに本性出したてぐらいの仲の親友同士の会話として凄まじくリアリティがある。
このシーンをはじめとして、最初は漫画のキャラクターとして登場した人物たちが、矢沢あいならではの鋭い切り口で妙にリアリティのある人間らしさを徐々に徐々に出していく様子は本当に読んでて引き込まれる。
この「味」は、この漫画が矢沢あいの出世作で、彼女の「らしさ」というのがこの作品の連載中にどんどん完成されていったからなんだろうな。この変化は「マリンブルーの風に抱かれて」でも「ご近所物語」でも「パラダイスキス」でも「NANA」でも味わえない、『天使なんかじゃない』でないと味わえない魅力なんじゃないかと思う。
おまけ
序盤のクリスマスの「会いたかったの…。」のシーンは、なぜか何回読んでも泣きます。
どうでもいいけどこいつらこの時点で高校1年生だよね?15歳だよね??恋愛偏差値高過ぎませんか???