破天荒フェニックス
「僕は、絶対に倒産すると言われたオンデーズの社長になった。」
この強烈なキャッチコピーと、オリエンタルラジオの藤森を彷彿とさせる若くて今風の社長の表紙が印象的なこちらの"小説"。
友人に勧められて読み始めたら、面白くて止まらなくなって一気に読み切ってしまったので、今日はその感想を書いていこうと思うよ。
ビジネス書だと思ったら、純粋な「エンターテイメント」だった!
「若い起業家の企業再生物語」と聞いて、自分はてっきりこの本は『ビジネス書』の類に属するものだと思っていた。
きっと、華やかに企業を復活させていく史実を振り返りながら、成功のノウハウを一つ一つ解説していくのだろう。
そういう印象の装丁だし。
ところが、読み始めてみて、そんな想像とは全く真逆の内容だったことに驚いた。
ノウハウ伝授のビジネス書どころか、ただただ起こったことをひたすらドラマチックに描いていく、純粋な エンターテイメント だった。
社長が自分の成功のノウハウを偉そうに伝授するページなんて、どこにもない。
というか、そもそも基本的に失敗続きだし、成功した場面も、「とにかく思い切ってやってみて、みんなで力を合わせて死に物狂いで必死で走り抜けて、なんとか成功させた」といったような描き方ばかり。
もちろん、そんな社長の姿から学ぶものは大きいけど、その学び方はどちらかというとビジネス書を読んでる時の学び方じゃなくて、ワンピースを読んでルフィの姿から学ぶ時の学び方だ。
そもそも社長自身が、この本は "小説" だと定義づけている。
「起こった事実をもとにしながらも、一つのフィクション、パラレルワールドの物語」と、ハッキリ書いている。
つまり、ノンフィクションのドキュメンタリーではなく、フィクションのエンターテイメントなのだ。
そして、このエンターテイメント小説が、
めちゃくちゃ ドラマチック で、
めちゃくちゃ 熱く て、
そしてめちゃくちゃ 面白い !
とにかくドラマチック。500ページが全編激動続き
この本、予想外に分厚い。
あとがき前の最後の一行が載ってるページが、491ページ目。
500ページもの分厚さを見て、自分は、
「あぁ、これは前半は失敗とか経営難に苦しむんだろうけど、後半の250ページくらいはうなぎ登りに業績が上がっていって急成長して順風満帆になる様子が描かれるんだろうな」
と勝手に予想していた。
ところが、実際は500ページが 全編 経営難に苦しんでいるパート である。
もちろん後半になってくると、様々な事業施策が大成功を納め、どんどん会社が成長していくんだけど、それでも当初抱えていた負債が大きすぎて、最後の最後まで資金繰りに苦しみ続けるのだ。
なんせ、491ページでエンディングだというのに、470ページ目でまだ 資金ショート という単語が出てくるのだ。
倒産、身売り、民事再生、そんな恐怖と最終章まで戦い続ける社長。
ホントに最後の方読んでて、これどこに着地すんの!?って思ったもん。
どんなに成功を納めても、次から次に予想外のピンチがやってきて、そしてそのどれもが回避は絶望的な上に、ダメージは即死級のものばかり。
そんな状況に、失敗して全てが終わる恐怖に必死で抗いながら、仲間と一緒に死に物狂いで戦い、寝ずに駆けずり回り、やっと一筋の光明が見えたと思ったら、思わぬ伏兵によって更なる絶望のどん底に叩き落とされ、全てを諦めて俯いて涙したところに、予想外の救いの手をさしのべられて、何とか窮地を凌ぎ切る。
…っていう場面が、1回や2回じゃない。
10回 も 20回 もある。
てゆーか、全編これ。
最初っから最後まで500ページ全部この繰り返し。
最終的に順風満帆どころか、借金返し切るところでエンディングだからね。
このドラマチックさは本当にすげーよ。
社長の熱さと、仲間の必死さが、読んでて爽快
こんだけ苦しい場面続きなのに、読んでて暗い気持ちにならないし、500ページもあるのに一気にサクッと読めてしまうのが不思議。
読み終わった後、ページ数を確認して「あれ?500ページもあった??」って思ったもん。
フランクで読みやすい文体で書いてあるってのもあるけど、一番の理由は社長やその仲間たちの熱くて思い切りが良くて明るいキャラクター性だね。
主人公である社長自身の熱さと思い切りの良さが読んでて気持ちいいし、それに呆れつつも「ダメでもともと、思い切ってやってやりましょうよ!」って一緒に頑張る仲間たちの、寝ずにのめり込んでいく様子も読んでて気持ちいい。
窮地を凌ぎ切ったときの、「ギリギリでしたけどね。なんとかやってやりましたよ。ハハハ…」みたいに乾いた笑いをする仲間を社長が労うシーンがとても好き。
この生き方は真似できないなー
すげー熱いしカッコいいし尊敬するけど、自分はこうは生きられないだろうなーとも思う。
1年や2年ならともかく、7年間だからね。しかも、それで終わりじゃなく、同じスタンスをまだまだ続けようとしている。
7年間も、身体的にも不眠不休で駆けずり回り続け、何よりも精神的に、倒産や失敗や身内を路頭に迷わせる恐怖とストレスに7年間ずっと晒され続けるって、どうやったらそんなことができんの!?って思う。
辛く苦しい状況に晒され続ける社長に読んでて同情すると同時に、「この人、そもそもなんでこんな思いまでしてオンデーズの社長になったんだ…?」と思わずにはいられなかった。
いや、もちろん、なんでオンデーズの社長になったかは最初の方にちゃんと書いてあるんだけどね。それだけじゃとても理解できないし納得できないよ。
あのままデザイン会社の社長を続けていた方が、安泰で順風満帆な人生を送れただろうに。
おそらくこの人は、こういうのが「好き」なんだろうな。安泰で順調な人生じゃなく、荒波で命がけの航海がしたい。し続けていたい。
そういう『男』は、この世に確実に一定数存在する。
泣ける小説でもある
まぁ、なんてったって、回避不可能なピンチからの、死に物狂いの頑張りと絶望があって、そこからの大逆転劇が何回も起こる小説だからね。泣きますよ、そりゃ。
読んでて 4,5回 は泣いた。
前回のアイシールド21の記事でも3回泣いたって言ってたし、最近何読んでも泣きすぎで説得力ないな。
まぁともかく、泣けるぐらい感動するのは確かですよ!
とにかく序盤が失敗続きで、死に物狂いで頑張ってるのに何をやってもうまく行かない社長の姿をずっと見てきてるから、それが報われ出す中盤の展開はホント、ボロ泣きの連続でした。
あんなんズルいわ。あんなボロボロの姿、必死な様子、苦労してる状況をずっと描写されたら、中盤以降泣くに決まってるやん。
特に電車ん中でボロ泣きしたのが、以下の3つの場面。
今日はね、来てくれて本当にありがとう、本当にありがとう。本当にありがとう
一つ目は、東日本大震災の被災地支援に行ったときに、避難所のおばあちゃんから差し入れを受け取るシーン。
あなたたちがメガネを作ってくれたから、私は自分の目で家族の無事を確認することができた。あなたたちのおかげで、私は家族に会うことができる。そう言って何度もお礼を言うおばあちゃんの姿に、読んでて涙が止まらなかった。
あぁ見えるということはなんて素晴らしいんだろうって、目がよく見えることのありがたさを、これほどまでに感じたことはなかったわ。だからこんなものしかなくて本当に申し訳ないんだけど、この差し入れをね、せめて受け取って欲しいのよ。今日はね、来てくれて本当にありがとう、本当にありがとう。本当にありがとう」
214-215P
仕事ってボランティアじゃないから、社会のためになっているかどうかが全てじゃないけど、自分が必死でやっていることが、これだけ人の役に立っているんだって、こんなに感謝してもらえるんだって、知れる瞬間って本当に嬉しいだろうなぁ。
こういうのを掛けて俺たちはずっとお店に立ちたかったんだ
二つ目は、社長が社運を賭けて生み出した革新的なデザインの新作メガネを、販売初日に社員たちが自主的に買っていたシーン。
「誰も管理職は『自分で買え』なんて指示してませんよ!みんな欲しくて勝手に買ってるんですよ!『こういうフレームを待ってたんだ』って『こういうのを掛けて俺たちはずっとお店に立ちたかったんだ』って言って」
241P
ここまで、「こんなチャラチャラした若造が社長なんて冗談じゃねーよ」って雰囲気がずっと流れていたオンデーズ社内。ここで初めて、社員たち自ら、社長の施策に、新しいオンデーズに、はっきりと価値を認めた瞬間。
なんかもうこのとき社長はどんな気持ちだったんだろうって考えると、泣けてくるよね。
お客さんや観客や消費者に認められるのも嬉しいけど、肩を並べて戦う仲間に認めてもらえるっていうのが、いつだって一番、最高に嬉しい。
私が、皆んなから断られたもう1億も加えて2億を出すと言ってるんだ!
そして三つ目は、3億の資金ショートの危機に、直前で4社に増資を断られ、強欲な上場企業社長に身売りをしなければならなくなった窮地に、藤田社長から掛けられたこの言葉。
「私が出します!」
「だから私が、皆んなから断られたもう1億も加えて2億を出すと言ってるんだ!」
「足りない分は私がなんとかすると、前に焼肉屋で約束したでしょう。男に二言はありません。だから田中社長も私を信じてください!何の為に今まで皆んなで頑張ってきたんですか?アナタはまだ、こんなところでオンデーズを諦めちゃ絶対にダメなんだ!」
309-310P
この場面は本当に名場面だ。色んな人に裏切られて、絶望を回避できなくなった状況で、身を切って手を差し伸べてくれる人がいる。それは善意でもあるし、それだけの価値があると、救ってもらう側が思ってもらえた(それだけの頑張りをしてきた)ってことでもある。
もう「私が出します!」の6文字を目にした瞬間に、田中社長とシンクロして、心ん中に暖かいもんがブワッと込み上げてきたもんね。
ここはこの小説最高の名場面だと思う。めちゃくちゃ泣いた。
おわりに
以上、破天荒フェニックス、感想でした。
あくまで「史実を元にした "小説"」だからね。このドラマチックさがどこまで現実だったかはわからないけど、少なくともエンターテイメントとしてはすごい面白かったし、めちゃくちゃ泣けたのは事実。
ドラマ化されるとの噂もある。結構楽しみ。
とりあえず、週末どこかのオンデーズのお店に足を運んでみよう。