ジョジョの奇妙な冒険
第3部 スターダストクルセイダース
こちらの記事の続きです。
さて、前回、なぜ承太郎が「DIOのスタンドの秘密をしゃべってもらう」と言ったのかについて、たっぷりと語ってきた。
だが、この作戦にはそもそも、致命的な欠陥がある。
それは、もしも「ダービーがDIOのスタンドの正体を知らなかったら」絶対に成功しない ということ。
なんせ、DIOのスタンドのことなどカケラも知らないダービーに対して「DIOのスタンドの秘密をしゃべってもらう」なんて自信満々に言い放ったら、ここまでの全てがハッタリだったってことがバレてしまう。
この賭けは、もしもダービーがDIOのスタンドの秘密を知らなかったら全てが終わっていた、危険な賭けだったのだ。
だが、承太郎には、ダービーがDIOのスタンドの秘密を知っているだろうという確信に近いものがあった。
その根拠こそが、他ならぬ ンドゥール との出会いである。
承太郎が本当に賭けたカードは、「ダービーがンドゥールと同じタイプの人間であること」
承太郎たち6人をいっぺんに相手取り、窮地に追い詰めた、承太郎も認める強敵であるンドゥール。
彼は敗北すると、その場で即座に自分の頭を自分のスタンドで撃ち抜いた。
理由は、自分の頭の中をハーミット=パープルで覗かれないため、である。
もしもDIOが自分以外全ての人間を信用しておらず、スタンドの能力やその他重要な秘密を自分以外の誰にも明かしていないとしたら、ンドゥールはこんな行動に出る必要はなかったはずである。
ンドゥールが即座に自害したということは、彼がDIOの致命傷になる何らかの秘密を握っていたことの証明でもある。
つまり、承太郎は、DIOは一部の強くて信頼のおける部下には、自分の重大な秘密を明かしている ということを、ンドゥール戦のときに知ったんである。
そして、ダービーと対峙し、彼がンドゥールと同じように、「強く」、DIOから「信頼されるような」人間だと確信した。
この男なら、ンドゥールと同じように、DIOの重大な秘密を握っているはず。
そして、DIOに致命的なダメージを与えるような重大な秘密とは、「DIOのスタンドの正体」に他ならない!
承太郎はそう確信し、そして、それに賭けた。
もちろん、そうじゃない可能性は大いにあった。
ダービーがンドゥールと同じようにDIOから信頼されているという確証は何もないし、例え信頼されているとしても、彼らが握っている秘密が「スタンドの秘密」とは限らない。
だから、承太郎は、それに「賭け」たんである。
承太郎が本当に自分たち全員の命をベットしたもの、それは、目の前に伏せてある5枚のカードではなく、ダービーという男がンドゥールと同じタイプの人間であること だったのだ。
承太郎はダービーを敵として尊敬している
承太郎たちが、ンドゥール と ダービー という2人の強敵に対して、尊敬に似た感情を抱いていることは明らかだ。
特にそれがわかるのが、承太郎たちがダービー弟と戦ったとき。
承太郎たちはダービー弟に対して、激しい嫌悪感を露わにしている。
それは、 ダービー弟が悪趣味なゲス野郎だから、というのもあるけれども、自分たちが強敵と認めたダービー兄を見下しバカにしていたから、というのも大きな理由だと思う。
その証拠に、ダービー弟を打ち負かしたときに「お前の兄貴ならこの程度のイカサマ、なんなく見破っていただろうな」と、ハッキリと兄の強さを認める言葉を口にしている。
まるで「ダービー、お前の屈辱は俺たちが打ち晴らしたぞ」と言わんばかりのこの台詞、敵との奇妙な友情が感じられて、自分はとても好きなシーンだ。
「敵と味方の奇妙な友情」は、少年漫画の醍醐味の一つでもあるよね。
承太郎がカードを見なかった理由
ちなみに承太郎が自分のカードを見なかった理由だけど、「カードを見ない」という奇行に出ることで、ダービーを揺さぶるというのも大きな理由だと思うけど、一番の理由は、承太郎自身がこのカードは強い手札だと思い込むため だろう。
いかに承太郎といえど、見てしまったら、自分のカードは本当は弱い手札だと知ってしまったら、あそこまでの演技はできない。もしかしたら強いカードかもと思えたから、あそこまで強気でいられたのだ。
というか、承太郎は「このカードは最強の手札だ」と思い込んでいたに違いない。カードを見てしまったらそれは弱い手札だと確定してしまうけど、見なければ「手札が弱い」という現実も存在するけれども、「手札が強い」という現実も同時に存在する のだ。まさに シュレディンガーの猫。
承太郎は「この伏せカードはロイヤルストレートフラッシュである」という強烈な自己暗示をかけていたんだろうな。
承太郎の勝因
承太郎の勝因は、勝負を自分の土俵に持ち込んだことだ。
ポルナレフはダービーとギャンブルで戦おうとした。
ジョセフはダービーとイカサマで戦おうとした。
どちらも、ダービーの得意とする土俵である。
第2部を読めばわかる通り、ジョセフはイカサマと頭脳戦の天才だ。実際、承太郎はジョセフがダービー相手にイカサマで戦うところを後ろから見てて、「このジジィすげぇ!」って舌を巻いていたのだろう。
ところが、そのジョセフが無残にも負けた。ジョセフがいかにイカサマの天才でも、それは本業ではない。
対して、ダービーは本物のプロのギャンブラーでイカサマ師。人生の全てをそれに捧げ、金を稼ぐどころか命すら何度も賭けて幾つもの修羅場を乗り越えてきたに違いない。この男に、イカサマのテクニックや頭脳では絶対に勝てない。
そう確信した承太郎は、勝負の土俵自体を変えた。テクニックや頭脳ではなく、精神力の勝負。それならば、自分は勝つ自信がある。
ただ、承太郎はこうも考えていたに違いない。精神力すらこの男が上回っていたら、そのときはこいつがそれほど凄い男だったということ。それならばそのときは仕方ない。
承太郎があんなにも肝が据わっていたのは、勝つ自信があったからではない。負けたらそのときは仕方ないと覚悟していたからだ。まさに第5部でしょっちゅう出てくる『覚悟』ってヤツである。
これも承太郎がダービーを「敵として認めて」いないとできない荒技だ。こういうところからも、承太郎はダービーを本当に強敵(とも)として認めていたんだなぁと思う。
おわりに
なんてったって、トップクラスに大好きな漫画であるジョジョの、トップクラスに大好きなダービー戦。
語れば語るほど止まらなくなるな。
これだけこの対戦が魅力的なのは、承太郎が敵であるダービーに対して、強い憎しみを抱きながらも、同時に強く尊敬の念を感じているところにあるんだろうな。
ポルナレフとジョセフという二人の仲間を奪われたことに対する強い憎しみを感じながらも、相手の凄さを知れば知るほどに尊敬の念も同時に抱いていく。そして、それに対して、自分の全てをぶつけたくなる。その上で相手が自分を上回っていたときは、全てを失っても構わないという覚悟を決めながら。
これをより純化させたものが、第7部でも屈指の人気対戦、「ジャイロ vs.リンゴォ=ロードアゲイン」なんだろうな。
語っていたらまたダービー戦を読みたくなってきてしまった。
ちょっと読んできます。
ではまた!