引きこもりになると、あまりに暇を持て余し、ワケわからん行動に出ることがある。
何を思ったか、突然戦隊モノのDVDを全部借り、全話一気見したりとかね。
俺がこの『鳥人戦隊ジェットマン』を全話見たのはそんな奇行の一つだったが、これがなかなかどうして面白かった。
Wikipediaなどで調べればすぐわかるけど、このジェットマンは、当時打ち切り寸前だった戦隊シリーズを盛り返すためテコ入れされた、戦うトレンディドラマと呼ばれた大人向けの作品だったんだよね。
何と言っても、子供向けとは思えない ドロッドロの恋愛模様と人間関係 が今でも語り草になっている伝説の問題作なんである。
この前年と前々年に放送された『高速戦隊ターボレンジャー』と『地球戦隊ファイブマン』は、どちらも酷い視聴率不振で、戦隊シリーズそのものが打ち切りの危機に陥ったらしい。
(俺の幼稚園時代は丸々この2作品の放映期間で、ターボレンジャーを夢中になって見てた子供だったから、後からそのことをWikipediaで知ったときはけっこうショックだったけど…。)
とにかく、このままじゃやばいとシリーズの命運を賭けて大幅なテコ入れと新たな挑戦を試み、大成功した戦隊シリーズが、この『鳥人戦隊ジェットマン』と、次作の『恐竜戦隊ジュウレンジャー』というわけだ。…らしい。
確かに、史上初の6人目の戦士の導入作品となったジュウレンジャーは面白かった。既に戦隊モノを卒業している小学2年生だったが、この作品だけは特別面白かったので見ていた記憶がある。
でも、ジェットマンはどうだったかな…。
そんな記憶を掘り起こすべくDVDを借りてみたワケだが、これがとんでもなく面白かった。
まず、味方の戦隊内の5人が、酷い四角関係で、めちゃくちゃ仲が悪い。
簡単に解説すると、こう。
♂レッド ← ♀ホワイト ← ♂ブラック・♂イエロー (かやの外:♀ブルー)
オラオラ系のブラックと内気なイエローはお嬢様のホワイトにぞっこん。でもホワイトは真面目な隊長のレッドに惚れている。だけどレッドは任務のことしか考えてないし、行方不明になった昔の恋人が忘れられない。女子高生のブルーはそんな4人を呆れて見ている。
そもそもこのジェットマン、正規隊員になるはずだった組織が襲撃されて壊滅し、レッド以外は偶然バードニックウェーブ(という特殊光線)を浴びた何の訓練も受けてない一般人なのだ。ジェットマンになりたくてなったわけでもない。だから恋愛関係を抜きにしてもそもそも仲が悪いしまとまりもない。
そんなギスギスなジェットマンだが、終盤ついに四角関係が爆発して殴り合いの喧嘩にまで発展する。公園の池で水しぶきを上げながらブラックとイエローが醜く殴り合う姿はなかなかすさまじいものがあった。
おまけに、唯一真面目な隊長であるレッドも、終盤、行方不明になっていた恋人のリエが敵に洗脳され敵の幹部になっていたことを知り、精神的におかしくなってしまう。
公園で一人で笑顔でブランコを漕いでいるレッド。そんなレッドを心配して駆けつけたブラックとホワイトに向かって、レッドは隣の空っぽのブランコを指さしてこう言う
「紹介しよう、俺の恋人、リエだ!」
ただただ呆然とするしかないブラックとホワイト。
味方は味方でこんな有様だが、敵も敵でひどい。
地球制服をたくらむ敵組織バイラム。首領の座は空座になっていて、ラディゲ、マリア、トラン、グレイという4人の幹部が、その首領の座を狙って足を引っ張り合っている。
誰かがジェットマンに勝ちそうになろうものなら足を引っ張ってその邪魔をするのは日常茶飯事、挙句の果てには裏でジェットマンに手を貸して他の幹部を攻撃することまである。
中盤、戦死したと思われていた以前の首領、女帝ジューザが復活し、首領の座に返り咲く。
目の上のたんこぶにめちゃくちゃ迷惑そうな苦虫を噛み潰したような表情で恨めしく見上げる4幹部だったが、実力の座はいかんともしがたく、嫌々ジューザに従う。
見ている方は、「あぁ、これでこのジューザってやつがこれからラスボスになるんだろうな」と、思うじゃん?
ところが、ジューザを疎ましく思った4人の幹部は、こともあろうに裏からジェットマンに加勢して一緒にジューザを始末してしまうんである。これによって、復活した悪の首領は、登場してたった2話であっさり退場してしまう。
翌週から、また4人の幹部による醜い首領争いが再スタートするのであった。
そんな足の引っ張り合いも、子供幹部のトランが大人バージョンのトランザに進化したことで、一気に均衡が崩れる。
圧倒的なパワーで他の3人を屈服させるトランザ。しばらくはトランザの天下が続く。
そんなトランザも敗れる日がやってくる。ラディゲが例によって裏から手を回したこともあってジェットマンの総攻撃に敗れ去るトランザ。で、こっからがすごいんである。
倒れるトランザの元にラディゲがやってくる。
そして、ラディゲはボロボロになったトランザを踏みつけてこう言うのだ。
「ラディゲ様と呼べぇぇぇぇえええーーーー!!!」
踏みつけられながら
「ラディゲ様ァァァアアアアーーーーーーっ!!!」
と絶叫するトランザ。
そして場面転換すると、なんと、
車いすに乗って涎を垂らした、目が虚ろになったトランザが映し出されるのだ。
医師に車椅子を押され、精神病院の檻の奥へと運ばれていくトランザ。
その檻の扉が、「ガシャーーン」と音を立てて閉まるところで、この週の話は終わる…。
壮絶すぎだろ…。
ヤバない?こんなん子供が見たらトラウマなるで?え?これホントに俺が小学生のときに子供向けに放送されてたの?
とにかく、敵も味方もドロッドロの人間関係と恋愛模様を繰り広げる、戦隊ヒーローの革命的作品にして問題作、『鳥人戦隊ジェットマン』。
今見ても大人にとっても見応え十分なので、興味があれば見てみてはいかがでしょうか。
あと、ブラックコンドルこと 結城 凱 がめちゃくちゃカッコいい。
中盤の話で、変身ポーズをとらずに歩きながら変身するシーンがあるんだけど、そのシーンがめっちゃカッコいいんだよね。
このシーンをはじめ、別に普段から正体を隠してなかったり、マスクが敵の攻撃で欠けたり、いつも全員揃うワケじゃなかったり、色々と戦隊モノの掟破りなのもこの作品の面白いところ。
今でこそ仮面ライダーはもちろん戦隊シリーズもお母さんをターゲットにするのは珍しくなくなったけど、当時は画期的だったんじゃないかなぁ。
ジェットマン、大分楽しませて頂きました。