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【読んだことない人へ捧ぐ】それでも町は廻っている が面白い3つの理由 その①

それでも町は廻っている

 

今日は大好きな漫画をようやくレビュー。

 

 

 

作品解説

通称『それ町(それまち)』。ジャンルは「日常漫画」。東京都大田区の丸子商店街で生まれ育った女子高生、嵐山 歩鳥 を中心に、彼女の身の回りの何気ない日常と、その日常の中に起こるちょっとした事件を描いていく。歩鳥をとりまく、個性豊かな高校のクラスメイトたちや商店街の人々も大きな魅力。

よつばと!』や『ばらかもん』に代表されるような、1話完結型の日常漫画でありながら、1話1話に、そして作品全体に散りばめられた謎ときや伏線のおかげで、さながらミステリー漫画を読んでいるような読みごたえがある。完結済全16巻。

 

そんな『それ町』の魅力を、今日も3つの観点から辿っていこう。

 

……と思ったけど、書いてみたら1つ目の魅力だけでめっちゃ長くなってしまったので、②③は次回解説。

それ町』は、「細かいところまで読み込んで伏線やつながりを見つけるのが大好きな人」「面倒くさいこと考えずに頭カラッポにして読める漫画が大好きな人」の両方に好かれる魅力を持つ漫画だけど、今日解説する一つ目の魅力は、前者の細かいところまで読み込むのが好きな人向けなので、後者の何も考えず読むのが好きな人は読み飛ばし推奨。ぜひ、次回のレビューを読んでくだされ。

 

では、1つ目の魅力を解説していきます。

 

 

① 時系列シャッフルによる読者への挑戦状

それ町』の最大の特徴、それは、

収録されている全ての話の時系列がシャッフルされている

ということ。

 

どういうことかと言うと、『それ町』は歩鳥が高校に入学してから卒業近くまでの3年間を描いた物語だけど、普通なら、

1年生4月→1年生5月→1年生6月…

と、順番に話が続いていくはずだ。

 

ところが、『それ町』では1巻の間で、

2年生8月→1年生5月→3年生10月→1年生8月…

といったような具合に、時間がまるでバラバラに話が描かれていくのだ。

 

しかも、どの話が何年生の何月かはいちいち表記されたりしない。今読んでいる話が一体3年間の中のいつの出来事なのかは、読者が自分で推理するしかないのだ。わかりやすい話だと教室のプレートに学年が書いてあったりするが、そんな話ばかりじゃない。

 

ただ、手掛かりは色々と転がっていて、例えば一番わかりやすいものは、主人公 歩鳥の髪型。中盤、歩鳥が散髪に失敗してベリーショートになってしまう話があるんだけど、これが2年生2月の出来事。だから、髪が短いか伸びかけの話は、3年生の出来事だとわかるし、そうじゃない話は、1,2年生時点での話だと分かる。

他にも、妹と弟の学年、友人の呼び方、先輩の在校の有無など、時系列を推測する手掛かりは色んなところに散りばめられている。

 

 ↑ 第44話で散髪に失敗してベリーショートになった歩鳥

 

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 ↑ 以降、歩鳥の髪が短い話と長い話が入り混じるようになる(同一人物です)

 

さて、ここまで読んで、普通の人ならこう思うんじゃないかな。

「それって何が面白いの?」

「単に読むのが面倒臭くなるだけなんじゃないの?」

 

面白くなるんです。これが。

 

端的に言うと、普通の日常漫画が、時系列をバラバラにするだけで、読みごたえのある伏線漫画へと変貌するのだ。とある話の、前日談や、原因となった事件や、影響を与えた出来事が、後から描かれることで、「そういうことだったのか!!」という驚きが生まれる。ときには、一見読んだときにはこういう話だと思ったものが、後々出てきた話と組み合わせるとまるで違った意味を持つ話になってハッとすることもある。*1

 

そしてこれらは、一見してすぐにわかるようには仕掛けられてはいない。だけど、観察力と洞察力のある読者なら、例えば第71話と第104話の繋がりを見抜き、「これってこういうことなんじゃ…?」というブレイクスルーによる快感を得られるようになっている。

 

そう、まさに、『それ町』は 作者から読者への挑戦状 だ。

こどものおもちゃ』の小花 美穂 は、あとがきマンガの中で「自分の漫画のこんなに細かいところまで気付くなんて、漫画家が描くプロなら、読者はまさに読むプロなんだなぁと思いました。」っていう言葉を残しているけど、『それ町』はまさにそんな「読むプロ」に向けられた漫画。

 

作者が読者に挑戦状を叩きつけてくるなんて、そんな漫画ある?と思うかもしれないが、思い出してほしい。読者が気付かないように謎や伏線をちりばめ、作品の中盤でそれを解くように挑戦状を叩きつけてくる、そんなジャンルがエンターテイメント界には存在するじゃないか。

 

そう、『それ町』は、「日常漫画」でありながら、巨大な一つの「ミステリー漫画」でもあるのだ。

 

それ町』を読み解くためのキーワードの一つが、まさにこの「ミステリー」だ。主人公の歩鳥は推理小説が大好きで探偵に憧れていて、自身も探偵ばりの推理力をしょっちゅう発揮する。そして、最初から最後まで一貫して登場する重要人物の一人は推理小説作家である。おそらく、作者の 石黒 正数 自身もミステリーが大好きなんだろう。そんなミステリー独特の読みごたえが、殺人なんて起きない平和な、ミステリーとは一番かけ離れているように思われる「日常漫画」に取り入れられている。そのことが、『それ町』を今まで見たことのない全く新しいジャンルの漫画にしている。

 

とにかく『それ町』は、全編通して話がものすごく計算尽くで作られている。最初から最後まで、伏線や仕掛けがあらゆるところに散りばめられている。

 

エンターテイメント作品を味わううえで、細かいところまで読み込んだり、伏線を見つけたり、前後の繋がりに気付いたりするのが大好きな人には、間違いなく抜群に相性のいい漫画だ。

 

それでいて、「そんな面倒くさい読み方できないよ。漫画くらい何も考えずに頭カラッポにして読みたーい!」って人が読んでも面白いのが『それ町』のすごいところだ。

その辺の魅力は、次回解説していこう。

 

つづく

*1:例えば、序盤の話で寝ぼけた先輩がお土産の銅像で歩鳥に殴りかかり、歩鳥が「こんな凶器にしかならないモノ誰が買ってきたんだ!」と叫ぶシーンがあるのだが、後の話で温泉旅行に行った歩鳥が「先輩へのお土産はこれでいいや」と言いながらその銅像を購入するシーンがある。覚えている読者は「犯人お前じゃねーか!」と時間差でツッコミを入れるというワケだ。