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【漫画】これ描いて死ね【感想】

これ描いて死ね

 

 

一篇の詩のように美しい物語

この半年で読んだ大量の作品の中で、群を抜いて面白かった作品のひとつ。

『これ描いて死ね』。

 

めちゃめちゃ面白かったんだけど、読感が独特で、今まで読んだどの作品とも比べられない独特な魅力を持つ作品でもある。

一篇の美しい詩を読んでいるような、宝物にしていた童話や絵本を読んでいるような、そんな感覚。

現実世界の女子高生を描いた話なのに、アタゴオル玉手箱を読んでいるような感覚に陥るのはなぜなんだろう。

 

話の内容も絵や表現もとにかく美しくて、一巻一巻大切に読み進めるごとに、なんて素敵な話が読めているんだろうとじんわりと作者に感謝したくなる。

 

「これ描いて死ね」なんて言わないよ絶対

タイトルは『これ描いて死ね』だけど、内容は『「これ描いて死ね」なんて言わないよ絶対』と言った方が正しい。

タイトルから、死ぬ気でプロ漫画家を目指したり生涯最高の作品を目指してボロボロになるまで漫画道を突き詰めるストイックな内容を想像してたんだけど、その役割は番外編の『ロストワールド』が全部背負っていて、本編はマイペースに楽しくゆっくりと夢を追う話になっている。

 

ていうか、この番外編の『ロストワールド』がめちゃくちゃ面白い。

毎巻の巻末に収録される、メインの登場人物の一人である手島先生の過去の物語なんだけど、こちらは本編とは真逆で「死ぬ気で漫画家を目指す話」「売れる漫画を生み出すためにのたうち回る話」になっている。夢を追う苦しみや挫折をしっかり描く話。

『ロストワールド』単体でも漫画として面白いし、『ロストワールド』との対比で、本編の『これ描いて死ね』がより輝く。

 

『ロストワールド』と『これ描いて死ね』を読み比べていると、夢の追い方って一つじゃないよなーと考えさせられる。

手島先生と安海の夢の追い方は、どっちも否定されるべきものじゃない。手島先生みたいに全てを投げ打って、挫折と絶望にのたうち回りながら夢を目指すことは、第三者が物語として見たときは確かに美しいけど、そこまでの覚悟がある人じゃないと、夢を追っちゃいけないの?って聞かれたら、答えはNOな気がする。

安海だって努力してないワケじゃない。ただ、無駄に苦しみを背負う必要は必ずしもないし、漫画が好き・楽しいという気持ちを保ったままで、自分のペースで一歩一歩夢を追いかけてもいいんじゃないか、と、本編を読んでいると思わされる。

 

雑誌に持ち込んで掲載されるしかプロ漫画家になる道がなかった昔と違って、SNSやWebなど夢を叶える手段がいくらでも用意されている令和だからこそ描ける話だなー、と、安海の笑顔を見ながらしみじみ思ったりする。

 

赤福みたいなポジションになりたい

キャラクターがみんな個性的なのもイイ。

安海、手島先生、赤福、藤森、石龍、へびちか先生、全員が違った個性と役割を持っていて、全員魅力的だ。

安海は絵柄と話のノリからバカっぽい印象を受けがちだけど、実は常識人で努力家で、他人のアドバイスを素直に受け入れてきちんと論理的に理解して漫画の成長に繋げるんだよね。そんなギャップもこの漫画の読んでて楽しいところの一つ。

 

漫画家漫画にあまりいなかった「読者役」のポジションの赤福も好き。

っていうか赤福のポジションになりてぇ。あの才能を活かすとしたら編集者なんだろうか?「凡人であり続けること」の才能なら、自分も赤福に負けないと思うのだが。

赤福が、究極の凡人だからこそ、天才のへびちか先生をやり込めるところはめっちゃ好き。

 

 

キャラも話も表現も魅力的で、詩や童話や絵本を読んだ後のような純粋であったかい気持ちになれる、そんな漫画。

面白すぎて猛スピードで何十巻も読んでしまう漫画じゃなく、一冊一冊、一ページ一ページを大切に読み進めたくなる、そんな漫画です。

今、次の一巻の発売がめちゃくちゃ待ち遠しい漫画の一つ。

『これ描いて死ね』おすすめです。