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【漫画】彼方から から見る異世界ファンタジーのあり方

彼方から

 

1991年~2002年に連載された少女漫画。

ジャンルは異世界ファンタジー

 

いわゆる、現代の女子高生がある日突然異世界に飛ばされて、そこで冒険する、という、よくあるあれだ。

俺たちの世代に馴染みの深いものだと、『魔法騎士レイアース』とか『犬夜叉』とか『龍狼伝』とか。ん?龍狼伝はタイムスリップものだから厳密には違うか?でも雰囲気はかなり近い気がする。

 

最近だとライトノベルという媒体でありえないくらい大量生産されているジャンルらしい。大昔から手垢のつきまくったジャンルだけど、最近は特に多いみたいだ。

 

たいていは主人公は現代日本の普通の中学生とか高校生で、飛ばされる先はだいたいドラクエとかFFっぽいファンタジー世界。で、なぜか主人公には特別な才能や能力があって、その異世界で大活躍する。というのがテンプレのパターン。

 

この『彼方から』も、例に漏れず主人公は普通の女子高生だし飛ばされた先はファンタジー世界だし主人公はその世界で特別な存在というまさにテンプレ通りの異世界転生ものだけど、あるたった一つの大きな違いがある。

 

それは、

言葉が通じないこと。

 

主人公のノリコが飛ばされた先の異世界では、ノリコが話す日本語という言語を誰も理解できない。ノリコも、その世界の住人の話している言葉は全くわからない。

考えてみれば、全く当たり前のことだが、星の数ほどある異世界転生作品のどれもやっていないことを、この作品は平然とやってのけている。

そして、たったこれだけのことが、この作品を、他の異世界転生と異なる、特別で、魅力的な作品にしている。

 

 

最初はノリコ視点で、聞いたことのない言葉を話す異人との出会いを描くんだけど、途中から視点をチェンジして、その世界の人から見るとノリコが知らない言語を話している、という様子が描かれる。

 

例えば、異世界の住人イザークが、ノリコに服の着方を教える場面での、こんなやりとり。

イザーク「中へ入れ込むんだ。」

ノリコ「にゃかい こむんだ。」

イザーク「!?」

イザーク友人「ははっ、言葉を覚えようとしているんだな。」

 

現代日本人である俺たちと同じ主人公の側が、他のキャラクターから見たら、聞いたことのない外国語を話す未知の存在である、ってことをこんなに生々しく描写している漫画なんて、少なくとも俺は他に読んだことがない。

 

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 ↑ 二重の吹き出しの中の言葉は、ノリコには理解できていない。

 

残念ながら言葉が不自由な描写は最初の方だけで、割と早い段階でノリコは現地の言葉を流暢に話せるようになってしまうが、この前半の描写は最後までグッと活きてくる。

 

 

そもそもなんでファンタジー作品を描くのに最初からその世界に住んでいる少年とかを主人公にするんじゃなくてわざわざ現代日本から転送させるかって、リアリティを生み出して読者に感情移入させるためだ。ところが、最初っから日本語が完璧に通じる上に、その世界に転送された瞬間に何か特別な才能に目覚め、主人公の俺ツエー状態でみんなにちやほやされて何もかも上手くいくって、そりゃその方がオタクの自己実現願望は満たされるかもしれないけど、肝心のリアリティと感情移入はどっか行っちゃってるじゃんって感じですよ。

 

ところが、この漫画では主人公はまず言葉を一から覚えなきゃいけないっていう大きなハンデをいきなり背負うことになる。そうなると当然、言葉だけじゃなくて文化や生活様式や風習なんかも色々と壁があるんだろうし、異世界に突然飛ばされた主人公は何もかもうまくいくどころかすごい苦労をするんだろうなっていうリアリティがある。そして、そんなハンデを乗り越えていく主人公に必然的に好意を抱くことになるし、感情移入もできるようになる。

 

あと、異世界に飛ばされたときの孤独感喪失感ね。これも言葉を話せないことで増してる。

 

とにかく、「言葉が通じない」っていうたった一つの描写だけで、作品全体の魅力をこれだけ底上げしてるんだからすごいよ。

 

彼方から 1 (白泉社文庫)

彼方から 1 (白泉社文庫)

 

 

異世界ものっていえば、結末をどうするのかも重要なポイントだ。

具体的に言うと、元の世界に帰れるのか、帰れないのか、帰れるとして、帰るのか、残るのか。

 

1番ダメなパターンは、両方自由に行き来できちゃうことね。そりゃあ主人公にとってはどっちも捨てずに済むんだからそれが一番ハッピーな結末だろうけどさ、読んでるこっちにとっては台無し感ハンパないワケですよ。

元の世界に帰っちゃうパターン。これも、まぁお話としては一番綺麗な終わり方だけど、主人公は恋人や仲間と永遠にお別れなワケですよ。読んでる側からするとほぼバットエンドに近い。いや、終わり方は綺麗だけどさ、こっちは主人公が恋人や仲間たちと楽しく幸せに過ごすのを楽しみにハラハラドキドキしながら読んでたのに、そりゃああんまりだよ、ってなっちまう。

やっぱり元の世界を捨てて異世界に残る、ってのが一番切なくてでも読者からすると納得する結末なんだけど、それをどう上手く描くか、漫画家の力量を問われる部分ではある。

 

で、『彼方から』の結末なんだけど、

以下、ネタバレあり、注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公は異世界に残ってイザークと幸せに暮らすわけだけど、自分の「手記」だけは元の世界に送るんだよね。これによって、残されたノリコの家族も不幸に終わらずに済むし、異世界の断絶感が台無しにならずに済む。

 

『彼方から』は、最初の入りから最後の着地点まで綺麗に終わった、まさに異世界ものの王道にして傑作だ。

 

ここまで読んじゃった人は結末を知っちゃったわけだけど、最後のオチを知ってても『彼方から』はフツーに面白いので、オススメです。ぜひ読んでみてください。