36巻感想。ネタバレ全開なんで読んでない人は注意。
前回は1014号室内での駆け引きがかなり面白かったが、今回は特に大きな山場はなく、各陣営が「動き出した」ってことを丸々1巻使って示したという印象。今はまだまだ今後に向けて風呂敷を広げている段階なんだろう。
それにしても、登場人物が膨大に増え続けるな。王位継承戦の登場人物だけでいっぱいいっぱいだってのに、下の層のマフィアの陣営たちもわんさか出てきて、もはやわけがわからない。もう全容を把握するのは諦めよう。
まだまだ風呂敷を広げ続けるんだろうか?それとも次巻からいよいよストーリーが動き出すのか?いずれにしても、王位継承編は相当な長丁場になりそうだ…。この調子だと次にゴンが登場するまでにあと10年はかかるな。
<天才たちの空中戦>
『HUNTER×HUNTER』の楽しみ方は "編" によって大きく違う。「ヨークシン編」も「グリードアイランド編」も「キメラアント編」も、それぞれ魅力も見るべきポイントも異なっている。
今回の王位継承編の、少なくとも自分にとっての楽しみ方は、「頭のいい人たちの空中戦を地上から眺める」読み方だ。
冨樫 義博 は元から頭が良かったが、今回はもはや俺たち普通の人間のレベルに合わせるのはやめて、いよいよ自分の知能レベルの高さそのままの位置で漫画を描き始めやがった感がすごい。「ついてこれない奴のことなんざ知るか」ってワケだ。
しかし、割り切ってしまえば、これが中々意外と心地いい。なぜなら、こんなレベルの高い漫画を読めるのはココだけだからだ。
全部を理解しようと思って「ついていけない」と思ってしまうと途端につまらなくなってしまうが、「無理してついて行かなくていい」とわかれば、それなりの楽しみ方ができる。「ものすごく頭のいい人たちがなんかすごいことをやってる」くらいの気持ちで、流し読みで読んでいって、分かるところだけふむふむと読んでいって、結果の部分だけ「うお!」とか「おぉ!」とか「へぇ~!」とか言って読んでるとそれだけでかなり面白い。だから、長文部分は正直流し読みだ。
逆に、今回の内容を文章全部理解できて駆け引きや登場人物の狙いや心理の流れまで完璧に理解しながら読んでるよ、って人がいたらお目にかかりたい。冨樫 義博 と同じレベルの高みまで上がっていける高い知能の持ち主ってことなんだから。羨ましい。
冨樫 義博 は天才だ。それは「漫画の才能がある」ってことではなくて、いやそれもそうなんだけど、今言ったのはフツーに、「IQがめちゃくちゃ高い、優れた知能を持つ」って意味の天才。
考えてみれば、このエンタメの方向性は『シン・ゴジラ』に似ている。登場人物たちを視聴者と同じ位置まで降ろさずに、あえてついてこれなくても高いレベルのやりとりを見せつける。そしてそれがめちゃくちゃ面白い。34巻の作者コメントで「『シン・ゴジラ』面白ェェェェ!!」って言ってたし、感化されてるのかもね。
<モブから色がついていくキャラクターメイキング>
ヒソカ vs 旅団 の行方や、新たに登場したマフィア勢力が物語にどう絡んでいくかも今後の見所だが、個人的にはやはり各王子たちの王位継承戦がどのような展開を迎えるかが一番気になる。
初登場時にはモブにしか見えなかった14人の王子たちもどんどん個性が表面化していき、今やフツーに思い入れの強いキャラクターになってきた。カチョウとフウゲツには生き残ってほしいし、ベンジャミンとハルケンブルグは意外と格好良いし、ツェリードニヒは今まででも最凶クラスにおぞましい悪役だし。
てゆーか 冨樫 義博 のもう一つすごいところはココ。
普通は、新たな主要登場人物が出てくるときは、きちんとデザインを考えてそれなりに大々的に登場させる。読者も読んでて重要人物だと分かるし、実際そういう人物はそう簡単には退場しない。
だが、冨樫 義博 の漫画では全くの逆。登場人物はどいつもこいつも最初モブにしか見えない。デザインもテキトーだし、立ち振る舞いも小物だったりする。ところが、ストーリーが進むにつれて、デザインも立ち振る舞いもどんどん洗練されてきて、気が付くと名実ともに主要キャラクターになっている。逆に、思いっ切りメインキャラクターっぽく登場したやつが、何もせずにアッサリ死んで退場するなんてことも日常茶飯事だ。
もしかしたら冨樫自身も誰が活躍するかを最初は想定していないんだろうか?キャラクターを動かしてみて、ストーリーの前線に躍り出てきた奴を色付けていってるんだろうか。
山ほど出てくる登場人物の誰が重要で誰がモブかは蓋を開けてみるまでわからない。まるで現実の俺たちの世界と同じだ。この辺のリアリティーも、さすがは冨樫節といったところか。
↑ 初登場時の旅団。モブ臭がハンパない。
↑ 現在の旅団。見事に洗練されている。
例に漏れず14人の王子たちもどんどんキャラが濃くなっていく。彼らが今後どんな顛末を辿るのか、ワクワクしながら見守っていこう。
にしても、"星を継ぐもの(ベンジャミンバトン)"は、ネーミングセンス良すぎ。