七英雄。
俺がRPGで最も好きなラスボスである。
まず七英雄っていう言葉の響きがカッコいいし、
元が英雄っていうのも悲劇のバックストーリーを感じさせて良いし、
七人いるのも単純な一つの思想だけじゃなく七人の別々の思惑が絡み合ってキャラクターに深みを出しているし、
名前もフォルムもめちゃめちゃカッコいいし、
何より絶望的に強い。
そんな七英雄。
だが、本当は彼らは何を考えていたのか、
なぜ悪となり皇帝の前に立ち塞がったのか、
そもそも本当に彼らは昔は英雄だったのか。
これらの答えが、ストーリー中に明確に説明されることは一切ない。
プレイヤーはただ、あちこちで拾える小出しの情報から、
「おそらくこうなんじゃないか?」ということを推理するだけだ。
これだけ魅力的なキャラクターと調理しがいのある素材を提供しておきながら、
いっさい料理することなく原材料のままぶん投げてくる感じ。
めちゃめちゃサガって感じで嫌いじゃない。
一応、通説として語られているのは以下の通り。
・七英雄は、古代人の間で、モンスター退治を行って英雄になった。
・だが、その強大な力は、次第に古代人自身に向けられるようになった。
・七英雄を疎ましく思った古代人たちは、次元転送装置の実験にかこつけて、七英雄を別次元に追放した。
・その後、古代人たちは、次元転送装置で安全な別世界へと移住した。
・怒り狂った七英雄は、元の世界に戻って来て、復讐のために古代人の足跡を血眼で探している。
・一部の古代人は元の世界に残り、万が一七英雄が戻ってきたら後を追えないよう、新人類を利用して七英雄を抹殺する計画を企て、それを実行した。
これらは、全て事実を元にした推測に過ぎない。
特に各人物たちの感情部分に関しては。
七英雄が古代人に力を向けていたというのは本当か?いつの世も、強大な武力が外敵を駆除してくれているうちは有難く感じるが、ひとたび平和になれば、その武力が自分たちの立場を脅かすのではないかと冷や冷やするのは世の常である。もしかしたら、七英雄自身は全くそんなつもりはなかったのに、当時の民衆たちが勝手に七英雄を危険視しただけ、という可能性もある。いや、民衆にとっては心から英雄だったからこそ、政治家や貴族といった権力者たちに疎まれてしまい、追放されてしまったという可能性もある。
また、次元転送装置の件にしても、本当に七英雄が謀略によって別次元へ飛ばされたのかは疑問が残る。もしかしたら、完全な善意で、英雄たちに名誉ある先発隊を務めてもらった結果、純粋な事故で、彼らだけ別次元へ飛ばされてしまった。という可能性もある。また故意だったとしても、それは「誰の」故意だったのか。当時の民衆全員の悪意だったのか、それともほんの一部の派閥の人間の策略だったのか。それによっても大分印象が違う。
オアイーブは主人公たち新人類を利用して自分たちの天敵である七英雄を抹殺した悪女として認知されているが、はたして本当に彼女たち「現世界に残った古代人たち」は悪だったのか。人類が滅ぶレベルの天変地異がおそってくるのに現世界に残るのは相当なリスクだ。そこまでして彼らが現世界に残ったのは、七英雄に罪の意識があったからなのではないか?とも取れる。例えば上記のように大多数の人間にとっては普通に英雄として慕われていたのに、一部の人間の謀略のせいで七英雄が別次元に飛んでしまったとしたら、七英雄を慕っていた派閥の人間は大きな罪悪感を感じるはずだ。その罪滅ぼしのために現世に留まったというのは十分に考えられる。そして、戻ってきた七英雄は人が変わっており、新人類に迷惑を掛け始めたので、仕方なく伝承法を新人類に伝え、七英雄を打ち倒す選択をした、という可能性も十分にある。
まぁ、七英雄の力が古代人自身に向かい、古代人に七英雄が疎まれるようになった、というシナリオが、一番プレイヤーをすんなり納得させるのは理由があるんだけどね。
だって、七英雄って全員
性格悪いんだもん。
たった一人を除いて。
俺も、七英雄の七人全員が性格悪かったら、
上記の通説に疑問を持たなかっただろう。
俺が七英雄に「別の可能性」を感じるのは、
ノエル の存在があるからである。
超絶紳士であり、基本的に必要がなければ皇帝と戦うつもりはない、
七英雄の良心、ノエル。
彼の存在が、七英雄のバックストーリーに様々な考察の余地を与えており、
ひいてはロマサガ2の物語全体に深みを持たせているといっても過言ではない。
七英雄は主人公たち新人類を虫ケラのように扱っているが、
これは彼らが悪だからというより、
彼ら古代人の感覚としては当たり前のことなんである。
中世以前のヨーロッパ人が、黒人や原住民族をモノ扱いしていたのと同じように、
それは悪とか差別意識とかそういう問題ではなく、
そもそも同じ人間ではないという感覚が常識だったということ。
その中において、きちんと主人公たち新人類の人権を尊重し、
「貴方たちに迷惑を掛けるつもりはなかった。すまない。」
とまで言えるノエルがどれだけ凄いかというと、
俺たちの世界でいえば黒人は奴隷でモノ扱いが当たり前だった時代に黒人の人権を主張したリンカーンやキング牧師と同じくらいの聖人で人格者だということだ。
ワグナスたちが悪でノエルがまともなんではなく、
ワグナスたちが普通でノエルが聖人なんである。
さて、そんな超絶聖人のノエルが所属しているということは、
七英雄はただのならずもの集団ではない可能性が出てくる。
まー、クジンシーとボクオーンは間違いなく昔からクズだったんだろうし、
ダンターグは昔から脳筋バカだったんだろーけど、
ワグナス、ロックブーケ、スービエは、昔はまともだった可能性がある。
じゃないとノエルが行動を共にしないでしょ。
自分たちは古代人のために命を投げ出して戦ったのに、彼らの身勝手でとんでもない世界に送還されて、そこでたった七人で何千年も閉じ込められていたら、そりゃあどんな英雄だって怒りで人格変わるよ。そりゃしょーがない。
まぁ、ワグナスたちの行動理念が「怒り」と「復讐」なのはいいとして、
ノエルはどうなのだろうか。
あの聖人のノエルが、本当に復讐を考えていたんだろうか。
また、「貴方たちに迷惑をかけたくない」と言っていたノエルが、
他の6人を野放しにしていた理由は何なんだろうか。
俺が妄想するバックストーリーは、こうだ。
おそらくノエルは、怒り狂う他の6人(正確に言うと、怒り狂う3人とバカ3人)を止められなかったんではないか。七英雄一の実力者といえども、さすがに6vs1じゃ分が悪い。現世で新人類に迷惑をかけている件も、思い思いに動く他の6人を無理矢理止めるよりは、とっとと次元転送装置を見つけて、一刻も早くこの世界を去ることが、主人公たち新人類に一番迷惑を掛けない方法だと思ったんじゃないだろうか。だから、ノエルとロックブーケの兄妹の負ってる任務が、「次元転送装置の発見」なのである。この世界を去って古代人に追いついたとしても、ノエルは別に復讐なんかしたくないしむしろどうやって止めようかと悩んでいるけど、とりあえず何の罪もない新人類にこのまま迷惑を掛け続けるよりは、自分たちを飛ばした古代人たちに復讐の刃が向くほうがまだ自業自得でマシなんじゃないか。そう思って、とりあえずは次元転送装置を見つけてこの世界を去ることを最優先に考えている。
ノエルと、クジンシーやボクオーンみたいなクズが一緒にいるところを見ると、
なんであんたみたいな聖人があんな奴らと一緒にいるんだよと言いたくなるが、
たとえどんなクズでもたった七人で何千年も一緒に過ごした仲間だし、
見捨てることはできなかったんだろうなぁ。
結局、彼らは転送装置を見つけることはできないまま、復讐も果たせず、自分たちが奴隷と見下していた新人類によって抹殺されてしまう。
その悲哀を、ノエル視点で見ると、本当に切なくてやるせない物語に見えてくる。
七人のうち一人の性格を良くするだけで、
これほど考察しがいがある題材を提供できる。
旧スクウェアさん流石やでぇ。
やっぱり、七英雄って、不思議な魅力があるわ。